成増から吉祥寺まで50分かけてバスで行きました。成増駅から、川越街道沿いのトーセー成増ビル前のバス停から乗ります。西武池袋線石神井公園駅、西武新宿線上石神井駅を越えて、細い道をうねうね行きながら、吉祥寺に到着した。
目的は、吉祥寺駅近くの名曲喫茶「バロック」で、一度行ってみたかった。
ビルの2階の喫茶店のドアを開けると、少し暗い空間にクラシック音楽がかかっている。上品な雰囲気の女主人に、紅茶を注文し、椅子に身を沈めて音楽に聞き入った。
流れている、レコードのノイズまじりのピアノ曲は、音声検索で、ショパンのスケルツォ第4番ホ長調で、ウラジーミルホロビッツという人の若い頃の演奏だった。後にCDになっているらしく、それを検知したが、力強く美しい演奏だった。
1983年、ホロビッツという天才ピアニストが来日した時、すでに高齢であり、ある評論家が「ひびの入った骨董品」と酷評していたことを思い出しました。その評論家は、北海道にゆかりのある人で、当時の新聞にその批評が少し大きく取り上げられていた。
YouTubeで当時の演奏が聴いたことがありますが、若い頃の演奏と比較すれば、多少は衰えはあるとしても、それでも私には、綺麗な音色に聞こえた。
1983年、私は、その頃、音楽に飢えていた。室蘭で誰かの演奏会があると、おこづかいをかき集めて出かけ、ベートーベンの「月光」などを聴いた。本当に、心のなかに月の光が差し込むようだった。ピアニストの名前も忘れたが、美しいピアノ演奏だった。
もし、ホロビッツという人の演奏を聴いたら、当時の私は、コンサートに行くことそのものにわくわくし、音色は綺麗だから、きっと満足しただろう。
クラシック音楽は、懐かしい気持ちにさせて、癒される。
添えられた2杯目の紅茶を飲みおえ、成増に戻るバスの時間を確認して、私は店を出た。女主人は、帰りに店のマッチをくれた。
こんな店は、行ける時に行かないと、この先、どうなるか分からない。思い出も、大事にしなければならない。そう思った。