10円で買い集めた、レンタル落ちの「ボカロ超特急」4枚組を聴いた熟年女は、幾つか、好みの曲はあったが、
56歳の熟年女は、初音ミクと名付けられたボカロの音声を聴くと、はからずも、80年代のジューシィ・フルーツというグループを連想した。
「ジェニーはご機嫌ななめ」は、ジェニーという固有名詞が出てこなくて、どこか抽象的な歌詞、イントロの電子音サウンドが、斬新だった。
また、当時、YMOというテクノサウンドがあったり、シンセサイザーという機械がどんな楽器の音でも再現できるのだと、人が語るのを聞いた記憶がある。
「それじゃあ、吹奏楽なんて、無くなりますね、みんな機械が再現できるなら」
と、当時、高校生で、吹奏楽団で下手なクラリネット吹きだった熟年女は、答えた記憶がある。
しかし、1980年に15歳だった熟年女は、漠然と、機械で済むなら機械が主流になるだろう、テクノサウンドは、未来に広まるかもしれない、生の演奏は贅沢な特別品になるかも、と考えていた。
シンセサイザーとは、名前は聞いていたが、実物は見たことがなかった。
ホルストという人が作曲した「惑星」交響曲を、シンセサイザーで再現した人が話題になり、それも聞いた。
友人が少ない孤独な熟年女は、意外と新しもの好きで、新規のものにとりあえずからみたい性格だった。
カセットテープをダビングしてもらったのだが、迫力はあるが、人工的な感じはあるなあ、と思った。
だが、悪くはなかった。人間が演奏する吹奏楽に慣れた耳には、機械音みたいな違和感は多少あったが、「未来的・モダンな音楽」の格好良さが、違和感を上回った。
とにかく、テンポよく歯切れが良い曲調が、耳に心地よかった。
ボカロを聴いて、ジューシィフルーツや、YMOサウンド、シンセサイザーの「惑星」を思い出す熟年女は、
ついでに、昔、流行ったインベーダーゲームのピコピコの電子音も、思い出すのだった。
普通の喫茶店が、インベーダーゲームの機械をテーブル代わりにしていた。
だが、熟年女は、お金がかかるインベーダーゲームをやったことがなかった。
100円玉を、ゲーム機に吸いとられる人たちを、遠くから見ていた。
テーブル代わりにゲーム機を使う喫茶店は、あまり客層も良くなく、騒がしい印象だった。
「思い出は電子音」というと、インベーダーゲームが置かれた喫茶店の、気だるい午後が思い出される熟年女だった。
# YMO
# 惑星 ホルスト