友人が、札幌に戻るわたしのために送別会と称して、「駒形どぜう」でどじょう鍋をご馳走してくれました。ここに来たのは30年ぶりで、当時は札幌在住で、東京に遊びに来たときに、はとバスのツアーの一環でした。ネギたっぷりのどじょう鍋はおいしかった。
竹筒に入った七味と山椒の出し方が分からず、まごついたが、友人がするのを真似て、山椒をかけた。
「ここはよく来るの?」「定期的に来てるよ」友人は慣れた様子で追加注文をした。
「あの人は今、どうしてる?」「親の介護が終わった」「年金だけじゃ食べていけない」という話題だった。
それから、八ツ目鰻本舗の支店のカフェまで歩き、クコの実のドリンクを飲んだ。
「漢方薬局運営のカフェなんだけど、静かで、ちょっと穴場なのよ」
友人は、「実家に、八ツ目鰻の漢方薬の黄色の缶があったなあ。親が飲んでいた。動けなくなったら、長生きしても仕方ない。健康がいちばんだ」とつぶやく。
「札幌が若者が集まれる希望のある町であってほしい、まずは自分ができることは何かと」
「難しいよね。少子化で、働き手も減っているし。私は買い物はネット通販を使うが、宅配便のお兄さんたちが、若手が育たないからネット通販は今後は成り立たなくなる、て話しているよ」と友人は、さりげなく恐ろしいことを言ったが、現実、そうだと思う。
友人は、あんみつが食べたいといったので、雷門脇の雷おこしの店の2階まで行って、クリームみつ豆を頼んだ。
この店は、上京してきた両親と行った店だった。あれから何年経つのだろう。
窓から雷門が見えた。
父は亡くなる直前、「雷門が見える喫茶店にまた行きたいが、再訪は絶望だな」と言った。そのお店に、友人と行ったが、この人にももう会えないかもしれない。
別れ際、友人は、「じゃあね、元気でね」と、軽く言った。まるで、また会えるみたいに、振り返りもせずに。「あなたも元気で」私は地下鉄の入口に立ち、去ってゆく姿をみた。ひどく暑かった。目からも汗がでる。