ずぶぬれの二人の札幌

札幌でフリーライブとグルメを楽しんでいます。

長渕剛「西新宿の親父の唄」の世界から「はっぴいえんど」の「ゆでめん」まで


 長渕剛という人が、1990年(昭和が終わり平成になる頃)に発表した「西新宿の親父の唄」を知ったのは最近ですが、
 古い建物や下町の商店街が壊され、再開発されてタワーマンションになる昨今、この歌は、現在進行形でした。
 「行くなら今しかない」と歌に鼓舞され、西新宿の親父の面影を探してきました。といっても、この歌は30年以上前で、歌の舞台はとっくに新しいビルになっております。
 しかし、まだ再開発の手が伸びていない地域に、まだ、西新宿の親父がいるかも知れなかった。
 パークタワー脇の、西新宿三丁目は、古い住宅地ですが、ここは、再開発の計画がある旨が、掲示板に書いてあった。空き家だろうが、木造の家がまだ残っている。

 西新宿四丁目に行くと、工事中の区画の先に、老舗の(1953年創業とか)蕎麦屋があり、店の傍には、日本手拭いが干してあって、なんとなく、江戸の雰囲気。


 まずは、そこで、まいたけ天ぷらそばを食べました。ボリュームがあって、美味しかった。
 昔ながらの小上がりもあり、父がいたら、俳句の話しでもしながら、蕎麦で一杯、やれるんだか。
○江戸っ子の裔に新蕎麦わさび効く、と父を偲んで一句。
 いや、長渕剛の世界から脱線しちゃったが。


 雰囲気のある寿司屋、空き家になった木造の家が目についた。


 さらに、方南通りを渡り、西新宿五丁目の松屋の横から細い路地を入ると、団子屋があった。

その先に、淀橋庚申堂。真ん中の石像は昭和29年のもの、両脇の石像はもっと古そうだった。

お茶屋、理髪店、料亭など昔からの商店が並んでいた。といっても、やっていない店も多かった。


が、団子屋やお茶の店に、昭和の雰囲気を感じた。
 畳屋はなかったけど、「西新宿の親父の唄」の世界は、これに近いのではないか。庶民的な路地の向こうには、摩天楼のような新宿の高層ビルが見えた。

 私は、団子を買ってお土産にした。
 以前、割烹だった店。西新宿のおやじみたいな、江戸っ子がいたかも知れない、と想像してみた。

 その先に、川があんきょになって、昭和7年に作られた橋の形だけ残っている場所があった。

橋のたもとの建物に「ゆでめん跡」と書いてあった。写真右側のオレンジ色の建物です。ちなみにその向かいの建物は、他の人のブログをみると、八百屋さんだったらしい。2017年くらいまでは営業していたようだ。

 ここには、「はっぴいえんど」というロックバンドの1970年のファーストアルバムのジャケットに描かれた風間商店という製麺所があった。


 製麺所は営業していないが、住宅には風間という表札があった。
 長渕剛の世界をたどるつもりが、最後は、はっぴいえんどの世界になり、すぐ近くの「羽衣の湯」で汗を流してから、地下鉄で帰りました。ハッピーエンドかな。

 「西新宿の親父の唄」の舞台は西新宿、おそらく1980年代後半、
 タバコを吸って苦しそうに咳をする親父が66で亡くなった。生きていれば100歳近い、戦争も知っているであろう親父は、「日本も今じゃクラゲになっちまった」、骨もない信念もない国ということか。
 親父の葬式はわりと寂しく春の光が目をつきさすが、その光は希望の光ではなく、再開発のデベロッパーどもが「ハイクラスな未来の住環境」みたいなそんな眩しすぎる光か。 
 親父亡きあと、その店は壊され、新しいビル、何なら都庁も建つ。
 親父はいい時に死んだのかもしれない、と主人公は考える。情緒ある下町の風情がある西新宿の古い街を壊して、新しいビルやタワマンが建つ、味気ない平成の時代を、親父は見ないで済むのだ。
 口は悪いが優しい親父で、鯛をさばいて「出世払いでいいからとっとと食え」と怒鳴る親父は、江戸っ子かも知れない。
 歌の主人公は、銭にもならねえ歌を歌っていたが、(売れるのが?)俺か俺じゃないかで命がけだった。(歌が?)古いか新しいか、そんなジャンル分けも意味はなかった。
 酒が飲めない主人公に酒を飲ませて、「男なら髪を短く切れ」と怒鳴る親父は、戦争を知っている大人、昔の価値観だが、苦労した人特有の情の深さがあるのだろう。
 親父の葬式のあと、路地の、閉店した畳屋の割れたガラスに主人公が映る。閉店した畳屋、それも昭和の終わりの象徴に思える。和室のある日本家屋は消えて、新しいビルやマンションが建つのだが、主人公の姿は、その昭和の象徴の畳屋のガラスに映るのだ。
 親父の口癖の「やるなら今しかねぇ」をいま、主人公も口にする。
     
    ※   ※   ※

西新宿の親父の唄

続けざまに苦しそうなせきばらいをしてた
西新宿の飲み屋の親父が昨日死んだ
「俺の命もそろそろかな」って 吸っちゃいけねえ タバコふかし
「日本も今じゃクラゲになっちまった」って笑ってた
わりと寂しい葬式で 春の光がやたら目をつきさしてた
考えてみりゃ親父は いい時に死んだのかもしれねえ
地響きがガンガンと工事現場に響きわたり
やがて親父の店にも新しいビルが建つという
銭にならねえ歌を唄ってた俺に
親父はいつもしわがれ声で俺を怒鳴ってた
錆ついた包丁研ぎ とれたての鯛をさばき
「出世払いでいいからとっとと食え」って言ってた
「やるなら今しかねえ やるなら今しかねえ」
66の親父の口癖は「やるなら今しかねえ」

古いか新しいかなんて まぬけな者たちの言い草だった
俺か俺じゃねえかで ただ命がけだった
酒の飲めない俺に無理矢理とっくりかたむけて
「男なら髪の毛ぐらい短く切れよ」ってまた怒鳴った
西新宿の飲み屋の親父に別れを告げて
俺は通い慣れた路地をいつもよりゆっくり歩いてる
すすけた畳屋の割れたガラスにうつっていた
暮らしにまみれた俺が一人うつっていた
「やるなら今しかねえ やるなら今しかねえ」
66の親父の口癖は「やるなら今しかねえ」