かつて、友人と、港区赤坂の豊川稲荷を訪問し、
私は、父の死後、北海道で一人暮らしをする母が、寂しくならないように誰かと暮らせて、楽しく生きられることを願いました。
本当は、長子の私が北海道に戻れたら良いのですが、札幌には住めても、胆振の地方都市(田舎)に、仕事もないのに野良猫を連れてゆくわけに行かず、母に寂しい思いをさせて、ただただ申し訳ないの一語に付きた。
私は一人で大丈夫、と気丈な母と、毎日電話はするが、
「今日はすることもなく、本ばかり読んでいた」と話すばかり、ふと、
「寂しいねえ」と言われると、申し訳無さに胸が痛かった。
しかし、ここに来て、弟が、本州での仕事を辞めて、来年の2月から母と暮らす、まずは年末年始は実家で過ごす、ということになり、私は、心から助かったと思った。
それを知ってから、母は、急に饒舌になり、
「本当に来てくれるのかしら。だったら嬉しいけど、仕事を辞めるなんて、体調悪いのかな。でも、来てくれたら、正直、助かる。話し相手もできるし、買い物も張り合いがある。本当に来てくれるのかな。だったら、椅子とか新しい家具が必要かな?駐車場はどうしよう」
など、楽しそうに語るのを聞いて、私も気持ちが明るくなった。
しかし、彼は、仕事を辞めたりいろいろな犠牲を払ったのではないか、
「君は東京で好き勝手に生きているけど、僕はお母さんのために仕事を捨てたんだ」と言われるのでは、と恐れていた。
が、電話で、
「この度はありがとうございます、いろいろ申し訳ない、何もできなくて情けないが」
と言いかけると、意外にも明るい声で
「気にしなくていいよ、僕も、ゆっくり過ごしたかったし。明日は温泉に行くから。夜はワインを飲む」
どうやら、いろいろ犠牲にしたのではなく、実家でのんびりしたい、渡りに船の気持ちなようだったので、ほっとした。
「2月のいつ、帰るの?それにあわせて私もあなたに挨拶に伺いたい」
「仕事の引き継ぎが1月いっぱいかかるから、いつ帰れるかはまだ分からない。でも、2月にはまちがいなく戻るから」
そんなわけで、念願かなったので、豊川稲荷様に挨拶に行きました。
いろいろな種類の狐さんや、七福神などが祀られていた。縁結びや縁切りの狐さんや金運の狐さんもいた。肩こりや関節痛に効く狐さんに触った。
「あのときの願いが実現しました。母が楽しく暮らせますように」と狐さんにお礼を語る。
境内には、初詣の前倒しの幸先詣りの人たちが数人いた。
お参りを済ませると、かつて、友人と入った茶店を再訪し、甘酒を飲みました。美味しかった。
素朴な、味のある雰囲気の茶店が並んでおり、土産物やお菓子、いなり寿司も売られていた。
生姜を入れた甘酒を飲みながら、一人暮らしにピリオドを打てた母の、明るい声であれこれと語る様子を思い返していました。
# 豊川稲荷東京別院